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東京地方裁判所 平成元年(ワ)14132号 判決

亡栗原耕作承継人原告

栗原タケ

栗原正孝

栗原世津子

田中三代子

右原告ら訴訟代理人弁護士

小林宏也

長谷川武弘

遠藤常二郎

佐藤孝

被告

本田喚尚

右訴訟代理人弁護士

北川雅男

主文

一  被告は、原告栗原タケに対し金一四六三万一三三五円、原告栗原正孝、同栗原世津子、同田中三代子に対し、それぞれ金四八七万七一一一円及び右各金員に対する平成元年二月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その六を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  主位的請求

被告は、原告栗原タケに対し金三九七五万円、原告栗原正孝、同栗原世津子、同田中三代子に対し、それぞれ金一三二五万円及びこれらに対する平成元年二月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  予備的請求

被告は、原告栗原タケに対し金三七二五万円、原告栗原正孝に対し金一七四一万六六六六円、原告栗原世津子、同田中三代子に対しそれぞれ金一二四一万六六六六円及びこれらに対する平成元年二月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、承継前原告亡栗原耕作(以下「亡耕作」という。)が弁護士である被告に事件処理を依頼し金員を預託したところ、被告が右金員中から弁護士報酬等として取得した金員が過大である等として、亡耕作の相続人である原告らが、委任契約に基づく受取物等返還請求権等に基づき、その返還を被告に求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  亡耕作は、別紙物件目録記載(一)ないし(四)の各不動産(以下「本件不動産」という。)をもと所有していたところ、本件不動産につき共有者全員持分全部移転登記ないし所有権移転登記を得た神谷製版印刷株式会社(以下「神谷印刷」という。)ないし株式会社ベンチ・マーク(以下「ベンチ・マーク」という。)に対する別紙事件目録記載(1)ないし(3)の仮処分申請及び同記載(4)の本案訴訟(以下、同目録記載の事件を「(1)事件」というように表示する。)の提起を含む事件処理を委任した(ただし、(1)事件の委任者が、亡耕作なのか原告正孝なのかについては、後記のとおり争いがある。)。

2  被告は右委任に基づき事件処理を行い、(4)事件は、昭和六三年一〇月四日、亡耕作がベンチ・マークに対し、同社から二億三〇〇〇万円の和解金の支払を受けるのと引き換えに本件不動産を明け渡す旨の訴訟上の和解が成立し終了した(和解の日につき乙第一四号証)。

3  亡耕作、その妻である原告栗原タケ(以下「原告タケ」という。)、その子である原告栗原正孝(以下「原告正孝」という。)及び同栗原世津子(以下「原告世津子」という。)は、昭和六三年一二月二六日、東京弁護士会に、被告を相手方として、亡耕作らが右事件処理の着手金等として被告に交付した金員から弁護士報酬として相当と考える金額を差し引いた残額を返還することを求める紛議調停の申立をした(乙第一号証)。

被告は、右調停中である平成元年五月一一日、新宿簡易裁判所に、原告タケ、同正孝、同世津子を被告として、弁護士報酬等の残金五二二万七三三〇円の内金三〇万円の支払を求める訴えを提起し、右訴えは同年七月三日、東京地方裁判所に移送され、平成元年(ワ)第九六二二号報酬金請求事件として当裁判所に係属した。亡耕作は、同年一〇月二五日、東京地方裁判所に本件訴訟を提起し、右訴訟は右報酬金請求事件に併合されたが、被告が平成三年一二月二六日に右報酬金請求事件を取り下げたため、本件訴訟のみが残った(以上の事実は、当裁判所に顕著である。なお、右のような経過をたどったため、本件訴訟では原告ら提出の証拠が乙号証、被告提出の証拠が甲号証となっている。)。

4  亡耕作は、本件訴訟係属中の平成四年七月二一日死亡し、妻である原告タケ、子である同正孝、同世津子及び同田中三代子が亡耕作の権利義務を承継した。

二  争点

1  本案前の主張

(被告の主張)

仮に原告らの本訴請求にかかる預託金返還請求権が存在するとしても、亡耕作は、国税滞納により、平成二年一〇月二三日、同年一二月一八日、同月二五日に右債権全額につき国税徴収法六二条所定の滞納処分による差押えを受けたため、本件訴訟の追行権を失った。国税徴収法六二条所定の滞納処分による債権差押えの効力が生じたときは、一般債権による差押えの場合とは異なり、徴収官は直ちに差押債権の取立を開始できるから、原告らは被差押債権につき当事者適格を失ったと解される。したがって、本件訴えは、不適法として却下されるべきである。

2  本案についての主張

(原告らの主張)

(一) 本件に至る経緯

(1) 原告正孝は、自己の借入金等債務を担保するため、亡耕作に無断で、同人所有の本件不動産につき、別紙物件目録記載(四)の建物については原告正孝名義での保存登記を、同目録記載(一)ないし(三)の各土地については原告正孝、同タケ及び同世津子らに対する共有名義での所有権移転登記をそれぞれ行い、右各不動産に原告正孝の右債務の担保のため抵当権を設定していたが、利息等で益々増大する借入金支払のため昭和六一年一二月一八日、神谷印刷から本件不動産を担保として四億円を借り入れた。

(2) 原告正孝は、神谷印刷からの右借入金を約定の昭和六二年六月一八日までに弁済すれば円満に解決するものと安心していたところ、昭和六二年二月末ころ神谷印刷の代理人弁護士から本件不動産について神谷印刷が売買契約により所有権を取得したとして、同社が所有権を有することの確認と同年六月一八日を期限とする本件不動産の明渡しを内容とする即決和解をするよう持ちかけられたため、売買契約をしたことはないとして、これを拒絶した。すると、さらに神谷印刷から、同年三月末までに四億円を返還しなければ本件不動産を明け渡せとの請求を受けた。

(3) このため、原告正孝は、亡耕作を含む家族全員に事実を打ち明け、家族全員でその対策に追われることになり、身体の不自由な亡耕作に代って便宜原告正孝が寺嶋芳一郎弁護士(以下「寺嶋弁護士」という。)に事件処理を委任した。

ところが、その後原告正孝は、友人から数億円を貸してくれる人として株式会社ジーファイブ(以下「ジーファイブ」という。)の代表取締役である野田喜樹(以下「野田」という。)を紹介され、同人に融資を依頼したところ、融資はするが弁護士を寺嶋弁護士ではなく、同社の熟知する被告に変えてほしいと言われた。そこで、原告正孝は、昭和六二年五月上旬頃、寺嶋弁護士に理由を告げて委任を断り、亡耕作に代って便宜原告正孝の名前で被告に本件不動産の取戻しを内容とする事件処理を委任した。

(4) その後、原告正孝は、被告に対し、本件不動産の実際の所有者は前記のとおり亡耕作であることを説明したため、原告正孝ではなく実際の所有者である亡耕作を中心として仮処分をやり直し、訴訟を提起することになり、亡耕作及び原告タケは、被告に右事件の処理を委任した。

(5) 被告は、右受任の際、この訴訟による裁判は絶対勝てる旨断言したが、本案訴訟は、前記一2のとおり訴訟上の和解で終了した。被告は、亡耕作に対し、右和解成立に至る経過報告や相談をほとんどしておらず、亡耕作が承諾していないどころか、反対していたのを熟知しながら右和解を成立させ、事後にこのような和解をせざるをえなかったとの結果報告をするだけであった。このような事務処理は契約違反もしくは不完全履行である。

(二) 亡耕作の被告に対する預託金 合計一億〇三一三万〇二〇〇円

(1) 右事件委任後、亡耕作は、右事件処理のため、その家族を通じて被告に対し、言われるままに別紙預託金等支払目録記載①ないし⑨のとおり、同目録摘要欄記載の経緯で金員を交付した。また、被告は同目録記載⑩のとおり、前記本案訴訟における和解金の第一回分割金五〇〇〇万円を亡耕作の代理人として受領し、その内金三三〇〇万円を亡耕作の承諾を得ないまま天引きして受領した。同目録記載①ないし⑩の合計額は一億〇三一三万〇二〇〇円である。

① 同目録記載④の金員交付の経緯

原告正孝は、昭和六二年五月一九日の一、二日くらい前、被告から仮処分の保証金として二二〇〇万円必要だから至急届けるよう指示されたため、同年五月一九日に原告世津子が二〇〇万円を現金で用意し、その余の二〇〇〇万円は、同日午後一時四〇分ころ原告正孝が九〇〇〇万円の金員を預託していた有限会社明王建設(以下「明王建設」という。)の実質上オーナーである恩田恒雄から同人の練馬区上石神井の事務所で現金で受領した。原告正孝は、被告の指示に従い、現金二二〇〇万円(一〇〇〇万円束二個と一〇〇万円束二個)を銀行の紙袋に入れて車を運転し、当時港区赤坂のアークヒルズビル内にあった被告事務所に同日午後二時四〇分から五〇分ころ届けた。被告は事務所で待機しており、原告正孝はテーブルと椅子のある衝立でボックスのようになっている応接の場所で紙袋ごと被告に金員を渡し、被告は金額を確認して受領した。その際、原告正孝が領収書を求めたところ、被告は自分がもらうのではなく保証供託金だから領収書は書けないと言い、発行してくれなかった。

② 同目録記載⑤の三二万五五〇〇円は、原告タケが被告から電話で印紙代として届けるように言われた金だからと封筒に入れて原告正孝に渡し、同原告が車を運転し被告事務所に届けたものである。

③ 同目録記載⑥の五七万九二〇〇円は、原告タケが被告から印紙代として届けるように言われ、続いての請求で、同原告自身、「印紙代ってそんなに高いのかね」とこぼしながら原告世津子に相談し、同原告が原告田中三代子から六〇万円を借りて都合し、うち五七万九二〇〇円を封筒に入れて原告正孝に預け、同原告が車を運転して被告事務所に届けたものである。

④ 同目録記載⑦の二二万五五〇〇円は、被告が前記調停での答弁書で別途受領したことを認めている。

⑤ 同目録記載⑧の金員交付の経緯

原告正孝は、昭和六二年七月一三日の二日位前、被告から電話で裁判費用が不足しているから四〇〇万円位出せないかと言われ、同原告は二〇〇万円くらいなら何とかなると答えた。当時同原告には、半年位前に設立した不動産会社である株式会社新の資本準備金一〇〇〇万円から資本金七〇〇万円を支払った残金三〇〇万円が新会社の運転資金用として手元にあった。翌日、被告から、明日裁判の件で同原告宅に行くので居るようにとの電話を受け、夕方に会うことになった。被告は、同月一三日午後四時ころ、同原告宅を訪ね、同原告と庭で約一〇分間立入禁止仮処分につき立ち話をした後、電話で話した二〇〇万円は何とかなったかと聞いた。同原告は、用意できた旨告げると共に、保管してあった二〇〇万円を現金で裸のまま家から持ち出して立ち話をした同原告の家の物置の側で被告に手渡した。被告はこのときも領収書を出さず、金を受け取るとすぐに帰った。

(2) 被告は、同目録記載①の二〇〇〇万円のうち五〇〇万円は原告正孝から受任した事件の着手金の一部であって亡耕作から預託されたものではない旨主張するが、被告に対する預託金に対する権利は、委任者を原告正孝から亡耕作に切り替えた際、原告正孝名義での訴訟委任時における同原告名義の預託金等も含めて、当然亡耕作に引き継がれることが当事者間の暗黙の了解事項であったから、右五〇〇万円は亡耕作の委任事件に関する金員として判断されるべきである。現に被告も右五〇〇万円を除く原告正孝名義での数口に及ぶ多額の預託金等を全て亡耕作の委任事件関係の金員として処理している。

また、原告正孝名義での委任事件に関しては、既に被告の前受任者である寺嶋弁護士によって進められ保証金まで決まっていたので、被告は単に形式的な保証金供託手続のみをしたにすぎないのであり、しかも、この保全のみで終わったのではなく、被告は実質的に亡耕作委任事件としてこれを引き続き継続受任しているので、原告正孝委任事件を独立した別件と考えることは不合理である。右訴訟活動の程度からみても原告正孝名義から亡耕作名義に切り換えをすると同時に、同原告名義での預託金二〇〇〇万円からの五〇〇万円の裁判費用は以後の亡耕作名義での委任事件での裁判費用として流用される了解下にあったことの推定は容易である。

(三) 弁護士報酬相当額

合計二三五九万円

(1) 本来、訴訟委任を受けた被告は、亡耕作及び原告らに対し、委任契約を締結し契約書を作成するならば、その内容を充分徹底するよう説明し、亡耕作及び原告らの確固たる納得を得たうえで締結しなければならない。ところが、被告は、受任の際、亡耕作や原告らに対し一般的弁護士報酬規定の説明をせず、具体的な着手金・報酬金等についての話や相談を全くせず、その後も一切していない。

次に述べる事情によれば、被告の提出する、被告と亡耕作及び原告ら間の弁護士報酬を定めたとする委任契約書(甲第二号証の二、三)は、いずれも被告が亡耕作及び原告らの無知・窮迫・混乱等につけ入って、何ら内容の説明なく、しかも現在筆記体で手書きされている部分は白紙のまま、亡耕作及び原告らに署名捺印させたものであるうえ、被告は、亡耕作及び原告らに右契約書も渡さず、被告自身のみで保有していたものであることから、信義則違反ないし公序良俗違反として無効である。したがって、また、この委任契約を基礎とする変更契約(甲第二号証の四)、覚書(甲第一八号証の四)等の被告に対する原告正孝の弁護士報酬に関する契約条項等も無効である。

① 原告正孝は、昭和六二年五月一二日、被告に委任する前に事件処理を委任し手続を進めてもらっていた寺嶋弁護士に仮処分保証金等二五〇〇万円を送金した。被告に委任しながらこのように寺嶋弁護士に送金したのは、既に寺嶋弁護士には被告に事件依頼することになった旨告げてその辞任方を打診中であったが未だ辞任が決まらず、同弁護士による仮処分手続が進行して保証金まで決まっていた段階であったからである。

② 右送金した金員は、原告正孝が神谷印刷から借り受けた金員のうち九〇〇〇万円を明王建設に預けてあったので、その預け金から工面したものである。原告正孝は、多額の借金のため土地建物を取られそうになり困窮して被告に助けを依頼していたが、この多額の借金の一部は、右のとおり預けてあり、とりあえず急を要する保証金等の金は、右借入金の中から工面できる状態であった。したがって、原告らは本来急を要する訴訟費用としてジーファイブから二〇〇〇万円を借り受ける必要はなかったが、数億円を融資してもらう先から「困っているだろうから取りあえず保証金等の訴訟費用を出してやる」と言われたため、もしこれを断ると融資の話がだめになるのではないかと恐れて右手持金のことを言い出せず、右二〇〇〇万円を借り受けた。

③ 一方、右送金と同じ日の五月一二日、右事情で借り受けることになっていたジーファイブから原告正孝名義の通帳に二〇〇〇万円が入金され、同日、被告により仮処分保証金一五〇〇万円の供託が実行されて仮処分決定が出た。

ところが、被告は、この日のうちに原告正孝が寺嶋弁護士に前記二五〇〇万円を送金したことを知って突然激怒し、原告らがジーファイブから借り受けた二〇〇〇万円を昭和六二年八月一〇日が弁済期限であったのに直ちに返還するよう強要するに至った。被告が右ジーファイブからの借入の保証人になっていることを知らない原告正孝は、何のためにジーファイブから借りた金員につき貸主でない被告から怒られ、直ちに弁済するよう迫られるのかわからなかったが、ジーファイブの紹介した弁護士でもあるので、被告の激しい罵倒と威圧の中で弁解もできず、被告に言われるままに被告の口授により誓約書を書かされた(甲第一二号証の六)。原告正孝は、怒鳴られて混乱した心理状態の中にあって、もし被告の要請に応じなかったら依頼している紛争解決ができなくなるとしか考えられず、被告の言うまま書く以外になかった。原告らにとって、被告がジーファイブの保証人となっていたことは本件訴訟において保証書が証拠として被告から提出されるまで全く知らない事実であり、被告は原告らに無断でジーファイブの保証人となったばかりか、金ができたと知るや弁済しなければ仮処分を取り下げると激怒したもので、右被告の態度は、全く依頼者の意思を無視した越権行為であり、原告らに対する強迫に等しい行為である。

④ この被告からの強要があって原告正孝は驚愕するとともに、被告の機嫌を損なうことを恐れ、送金先である寺嶋弁護士と交渉し、同弁護士に送金した二五〇〇万円のうちから二〇〇万円を同弁護士に支払うことで辞任の同意を得、残余の二三〇〇万円のうち八〇〇万円は原告正孝へ、その余の一五〇〇万円は直接被告に送金された。原告正孝は、右送金を受けた金員中六〇〇万円をさらに被告に送金した。

⑤ その後、昭和六二年五月一五日ころ、被告に書類を届けに行った原告世津子が、被告に対し紛争となっている本件不動産の真の権利者は亡耕作である旨話したため、原告らは、被告からさんざん刑事事件云々とまでののしられ、亡耕作名義で仮処分等をやり直さなければならないと怒鳴られ、悪者扱いされてしまった。このため一層小さくなって何も言えなくなった原告正孝は、さらに被告に言われるまま口授により承諾書(甲第一二号証の七)を書かされた。この書面にはジーファイブからの借受金二〇〇〇万円は被告に送金された右金員の中から返済する旨書いてあるが、現実には何の返済もなかったことをずっと後になって知った。

⑥ 昭和六二年五月一八日、亡耕作名義での仮処分申請がされたが、右仮処分は執行不能となった。そのころ、被告から悪者呼ばわりされていた原告正孝は、当時既に被告に対し合計四一〇〇万円(ジーファイブからの二〇〇〇万円、原告正孝からの六〇〇万円、寺嶋弁護士からの一五〇〇万円の合計四一〇〇万円)が渡っており、現実にはこの中から既に使用した保証金一五〇〇万円を差し引いても二六〇〇万円残るので、再提出の仮処分保証金二二〇〇万円への充当は充分にまかないえたのにもかかわらず、右承諾書に書いたとおり「ジーファイブからの借金二〇〇〇万円の返済に回って財源がないため、保証金二二〇〇万円を立て替えたからその金を支払うように」と被告に言われ、被告に要求されるまま念書(甲第一八号証の一の一)に原告ら全員の住所氏名を書かされ、新規に金を都合するよう要求された。

⑦ そして、原告らは、昭和六二年五月一九日、原告ら宅を訪ねてきた被告に指図されるままに委任契約書(甲第二号証の三)に対する署名等をさせられるに至った。原告らは、テーブルの上に出された数々の書類に次々と被告に指示されて署名押印した。その中に右委任契約書が入っていたと思われる。この日、原告らが署名させられた書類は、原告らの記憶が乏しく明確ではないが、日付等からみて右委任契約書以外に、借用証書(甲第一八号証の一の二)、公正証書委任状(甲第一八号証の一の三)等がある。この署名を求められた当時の原告らは、本件不動産がとられそうになっている緊急事態のほかに、前記のとおり被告に激怒されながらジーファイブからの借受金を期限前に返済することとなり、また被告に怒られながら裁判上の手続も亡耕作名義で根本的にやり直すことになっており、さらにジーファイブに返すため足りなくなった仮処分の保証金二二〇〇万円を被告が立て替えたからとその返済金の工面方を強要され、かつ亡耕作の所有物を勝手に原告らの名義としたことが刑事事件として発展するかもしれないとの恐怖感に悩まされるなど数々の度重なる出来事のため、精神的に全く疲労困憊しての困窮、混乱の極地にあり、筋道を立てて事態を判断する余裕のない状況下にあった。

そのうえ被告は原告らに対し、裁判は必ず勝てる旨断言するので、窮迫状態にあって助けを求めていた原告らは、被告の言葉に飛びつき、被告に指示されるまま、いわば反射的に署名押印に応じたものである。この際、被告から弁護士報酬等の委任契約の内容についての説明は何もされず、単に裁判を続けるのに必要な書類というだけであった。このような状態だったため、原告らは、和解が成立した後の昭和六三年一一月一四日、金銭の清算と書類返還で被告と交渉した際、被告から委任契約があると言われてそのコピー(乙第五号証)をもらうまで、委任契約そのものの存在すら知らなかった。

⑧ 原告正孝が、昭和六二年七月一〇日付けで委任契約書(甲第二号証の三)の裏に書かされた変更契約(甲第二号証の四)も、被告に要求されるまま、この場所に書けと指示されたとおりに被告の口授で記載したにすぎず、原告正孝は、この時は表の委任契約書も見ていない。

(2) 保全事件を本案事件と併せて受任する場合でも、着手金は本案事件とは別に受け取ることができ、また、報酬は原則として受け取ることはできないが、事件が重大または複雑であるときは例外として受け取ることができることは東京弁護士会弁護士報酬会規(以下「会規」という。)の定めるところである。しかし、保全事件のみを受任し本案を受任しないことは例外中の例外であって、被告も保全事件と本案事件とを併せ受任している。この場合、保全事件の着手金は本案事件での着手金等を決める際の付加的要素としてとらえ、独立に保全事件の着手金としては決めないのが一般であると考えられる。

また、報酬を決める事件数についても、原告らが被告に依頼した事件は、取られそうになっている不動産を取り戻すことに尽きるから、社会的な生の紛争事実は一個とみるべきである。それが理論的な法的手段として幾つかに分けられるとしても、依頼者も一個の紛争事件解決の趣旨として依頼しているのであるから、その面からも一個の社会的紛争についての一個の訴訟事件として報酬を決めるべきである。

被告は、本件であえて意識的に事件数を多くして三件以上とし、かつ事件が複雑多岐にわたる旨主張するが、保全手続である(1)ないし(3)事件は、いずれも本案事件のために行った補助的なものである。また、一件として算定する場合においても、被告の受任した事件はごく普通の不動産事件であって、複雑多岐にわたる事件とまでいうことはできないから、三〇パーセント増とするのは不当である。

(3) 被告が別紙事件目録記載の各事件処理につき、原告らから受領すべき弁護士報酬金は、その費用を含め次のとおり合計二三五九万円が相当である。

① 着手金 一三八四万五〇〇〇円

被告が受任した事件は、四億円で所有権移転された本件不動産の取戻しであるから、その算定基準たる経済的利益は、その代償となっている右四億円を基準として算定するのが相当であり、依頼者の意思にも合致する。右四億円を基準として会規により着手金の額を算出すると一三八四万五〇〇〇円が相当である。

被告は、算定基準額について取戻しを依頼された対象物件の経済的利益(時価)であるとし、本件での時価を一二億円として計算の基礎にしているが不当である。

②報酬金 八七四万五〇〇〇円

本件は、原告らの委任希望に添わず、その意思にも反して本件不動産の取戻しのない結果となり、訴訟上の和解で二億三〇〇〇万円を受領するものとして終了している。右和解金を算定基準たる経済的利益として会規により算出すると八七四万五〇〇〇円が報酬金として相当である。

右紛争の内容は「売渡担保」の構成より、亡耕作が偽造文書をもとに所有名義を変えられたと構成する方がむしろやりやすかったと思われること、和解までに至る期間も一年四か月間と短く、その大半は和解期日であり、かつ証拠調べ等手数のかかる手続も行われていなかったこと等の諸事実からみて、本件は複雑、多岐にわたる特殊事情のある事件ではなく、一般通常の事件として評価、算定がされるべきである。被告はどこにでもみられる和解条項上の明渡し猶予期限についてこれを算定すべき経済的利益としてとらえる等不当である。

③ 諸費用等 一〇〇万円

別紙事件目録記載の各事件処理のための貼用印紙、予納郵券、登録免許税等の諸費用の合計は約五五万円であり、これに書面作成、調査、研究、日当等をせいぜい四五万円とみて加算した総計一〇〇万円が費用相当額である。

(四) そうすると、被告が亡耕作から受託等受領した別紙預託金等支払目録記載の総計一億〇三一三万〇二〇〇円から右報酬金相当額合計二三五九万円を控除した七九五四万〇二〇〇円は亡耕作に返還されるべきである。

(五) 亡耕作の死亡により、原告タケは二分の一、その余の原告らは各六分の一の割合により、亡耕作の権利義務を承継した。

(六) よって、原告らは被告に対し、民法六四六条一項による受取物等返還請求権等に基づき、預託金等合計一億〇三一三万〇二〇〇円から弁護士報酬等相当額である二三五九万円を控除した七九五四万〇二〇〇円の内金七九五〇万円につき、原告タケは三九七五万円、その余の原告らはそれぞれ一三二五万円及びこれらに対する弁済期を経過した後であり、被告が前記一3の紛議調停申立に対して答弁書を作成した平成元年二月八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

(七) (予備的請求について)

仮に、別紙預託金等支払目録記載①の二〇〇〇万円のうち五〇〇万円につき原告正孝が返還請求権を有するものと解される場合には、前項の請求額七九五〇万円から右の五〇〇万円を控除した七四五〇万円について各原告らがその法定相続分に従って相続することとなり、原告タケの請求額は三七二五万円、原告正孝の請求額は一七四一万六六六六円、その余の原告らの請求額はそれぞれ一二四一万六六六六円となるので、原告らは、それぞれ、被告に対し右金員及びこれらに対する前同様の平成元年二月八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告の主張)

(一) 本件の経緯について

被告が、本件不動産の真実の所有者が亡耕作であり、原告正孝ら名義の登記は偽造文書による不実のものであると聞いたのは、昭和六二年五月一五日に原告世津子からである。被告は、これを聞いて、亡耕作から事件処理の受任をする前提として、原告正孝及び同世津子から亡耕作に事実を打ち明けることを強く求めた。この結果、原告正孝は、同年五月一八日に至ってから、初めて亡耕作に事実関係を全部打ち明けたものである。

被告に対する当初の委任者は、名実共に原告正孝であって、便宜同原告名義で委任したものではない。

(二) 亡耕作の被告に対する預託金について

(1) 別紙預託金等支払目録記載①の二〇〇〇万円を原告正孝から受領したことは認める。

右二〇〇〇万円のうち五〇〇万円は、原告正孝から依頼を受けた(1)事件(別紙物件目録記載(四)の建物についてのみ。)の着手金として受領した。また、一五〇〇万円は、同事件の仮処分保証金として使用した。

(2) 別紙預託金等支払目録記載②、③の金員を受領したことは認める。

右は亡耕作のジーファイブからの借入金の返済金もしくは土地についての仮処分申請のための準備金として受領したものである。

(3) 同目録記載④の金員を受領したことは否認する。

被告は、(2)事件の仮処分保証金二二〇〇万円を自ら金策し、亡耕作のために立て替えたものである。右二二〇〇万円を原告正孝が出捐したとの話は昭和六三年一一月一四日に至ってから突然言い出されたものである。

原告らと被告との間には昭和六三年八月上旬ころから金銭授受をめぐるトラブルが生じていたが、昭和六三年九月五日の時点では、原告正孝が当初は六〇〇万円を現金で支払ったと主張し、次には四〇〇万円を現金で支払ったと主張する金員に関する一点のみであった。

ただし、被告は、(4)事件の着手金として、原告正孝から、昭和六二年五月一九日に現金で二〇〇万円を受領したことはある。

(4) 同目録記載⑤ないし⑧の金員を受領したことは否認する。

(5) 同目録記載⑨の金員を(5)事件の準備金として受領したことは認める。

(6) 同目録記載⑩の金員を受領したことは認める。

三三〇〇万円のうち、七九四万七三三〇円を後記のとおり亡耕作の債務弁済に充て、残金二五〇五万二六七〇円を後記(三)(5)③の本案事件終了による成功報酬の内金として受領した。

亡耕作の債務弁済に充てた経緯は、次のとおりである。

原告正孝は、昭和六二年五月一一日、ジーファイブから二〇〇〇万円を、弁済期同年八月一〇日、遅延損害金年36.5パーセントの約定で借り受け、亡耕作は、同年五月一九日ころ右債務を連帯保証した。昭和六三年一〇月一七日現在における右債務の残額は七九四万七三三〇円(残元金七八三万七八一六円、年三割で計算した遅延損害金が一〇万九五一四円)であったところ、被告は、右借入にあたりその返済を事実上保証していた等の経緯から、昭和六三年一〇月一七日、和解金の預り金五〇〇〇万円の中から右の残債務を差し引き、これを亡耕作に代って完済した。被告は、右差引きにつき、昭和六三年一〇月一三日ころ亡耕作の代理人である原告正孝の承諾を得ている。

(三) 弁護士報酬相当額等について

(1) 会規二三条4項は、「第一項(仮差押・仮処分事件)の着手金及び報酬金は、本案事件に併せて受任したときでも、本案事件の着手金及び報酬金とは別に受け取ることができる。」として、保全事件の着手金、報酬金等を本案事件のそれとは別に請求できること、すなわち保全事件と本案事件とは密接不可分の関係にはあっても、報酬との関係では別事件として扱うのが原則であることを明らかにしている。また、会規三条1項は、「弁護士報酬は、一件ごとに定めるものとし、裁判上の事件は審級ごとに、裁判外の事件等は当初依頼を受けた事務の範囲をもって一件とする。」と規定している。

本件では、委任契約書はそれぞれ各一通であるが、委任内容は、「①仮処分申請、②不動産の取戻しを目的とした本案訴訟の提起、③不動産取戻しのための必要資金の調達とそれに伴う目的不動産の処分関係(担保提供ないしは売却処分)と三件にわたっているから、受任件数はそれぞれ三件であり、したがって報酬関係も三件を別々に算定するのが会規の趣旨に合致する。仮に、これを密接不可分の関係にあるものと評価したうえで、全体を一件と数えて算定する方法にそれなりの合理性が認められる場合には(ただし、①と②は併せて一件でも良いが、③は通常の受任範囲からは明らかにはみ出ている。)、明らかに「事件が複雑、多岐にわたる」ものと言わざるをえない。

(2) 会規一八条2項は、「前項の着手金及び報酬金は、事件の内容により、それぞれ三〇パーセントの範囲で増減することができる。」としており、会規は、事件の種類、繁簡、処理時間等、事件の内容を考慮し、標準額の三〇パーセントの範囲内で報酬額等を増減することができ、右の増減額をしてもなお相当でないときは、会規四条1、2項により、さらに増減額をすることができると解されている。つまり、報酬額等を増額する規定は、会規四条2項と一八条2項の二か所に設けられており、増額できる場合として、前者の場合には「事件が特に重大もしくは複雑なとき、審理もしくは処理が著しく長期にわたるとき」等明白な制限を設けているのに対し、後者では何らの制限もしておらず、単に「事件の内容により増減できる」と抽象的な表現をしているだけである。右によれば、会規一八条2項による増減は、単に「事件の種類、繁簡、処理時間」等の事件の「客観的な内容」のいかんだけにとどまらず、「事件当事者、人間関係、支払方法、支払能力、受任の経緯」等を含めた一切の事情を総合して行うことができることは当然であり、合理的である。

すなわち、本件の場合、受任件数は正しくは三件であるが、便宜上一件と数え、その代り「複雑、多岐にわたる」ものとして三〇パーセントの増額をすることも可能であれば、さらには着手金等の支払方法が長期の分割払いであるうえに、事件の処理が不成功に終わった場合には未回収の着手金残を(事実上)免除するような支払方法の場合には、受任者にとってのリスク負担が極めて大きいものと考え、その代わり(成功した場合を一種の条件として)高率の報酬を約束することも可能であり、このような弾力的な運用をすることこそ合理性がある。

(3) 会規一五、一六条は、着手金及び報酬金は事件対象物の経済的利益額を基準とし、物の所有権に関する争いの場合には対象たる物の時価を基準とし、占有権、使用借権等の場合には物の時価の二分の一の額を基準とするとしている。右でいう「物の時価」とは、固定資産税の評価額等ではなく、当該物の「現実の取引価額」である。本件における目的物の時価は、当時約一二億円であったから、右の時価を基準として算定すべきことになる。

(4) 本件においては後記のとおり三〇パーセントの増額をしているが、その理由は次のとおりである。

原告正孝の委任事件については、①本来的な受任事件の数は複数(三件)であるのに、これを一件として報酬を定めているからその分だけ事件は複雑、多岐にわたったものになること、②対象物の時価が高額であり事件が重大であること、③本来の着手金の額は数千万円にのぼるにもかかわらず、初めは五〇〇万円を収受するだけであり、残りは事件の終了時に、しかも成功時にのみ支払う旨の、受任者にとっては極めてリスクの大きい不利な委任契約内容であったこと、④しかも、原告正孝の説明によると、原告らは本件不動産を神谷印刷に対し、四億円を借り受けたための「売渡担保」として所有権移転しており、そうだとすると原告正孝らの勝訴の見込は極めて乏しく、解決には大変な困難が予想されたこと、⑤事件の間に、いわる事件屋ブローカーややくざまがいの人物が介在し手数料やリベートの要求をちらつかせるなど筋の悪い印象であったうえ、事件の相手方(神谷印刷、ベンチ・マーク)も事件屋まがいであり、対応に慎重を要したこと、⑥以上により普通の事件より余分な神経を使わなければならず、気苦労の多い事件であったこと等が理由である。

亡耕作の委任事件については、前記①ないし⑥の理由がそのままあてはまるほか、⑦右事件については原告正孝らの文書偽造による不実な所有権移転登記の経由、詐欺による金員借入等の刑事問題がからみ、事件進展の展望と行方が予断を許さない重大なものであったこと(主張、立証の中身次第では、原告らが刑事訴追されるおそれも十分にあった。)、⑧それにもかかわらず、当事者本人たる亡耕作は病気に冒されて身体と頭脳と言語能力に支障をきたしていて、原告正孝を立てて頼りにせざるを得ない状況にあり、訴訟当事者の関係が複雑であったこと、⑨原告正孝が一切の約束事に極めていいかげんであり、連絡もとり難い状況にあったこと等が理由である。

(5) 別紙報酬等目録記載のとおり、原告正孝は昭和六二年五月一一日ころ、亡耕作は同年五月一八日及び同年七月一〇日ころ、それぞれ被告に対し、同目録記載1ないし3の「委任内容」欄記載のとおり事件処理を依頼し、「約定した報酬等の額」欄記載のとおり報酬を支払うことを約束した。被告は、同目録記載1ないし3の「顛末」欄記載のとおり事件を処理し、「現実に受領した報酬等の額」欄記載のとおり1については原告正孝から五〇〇万円、2、3については亡耕作から合計六七〇五万二六七〇円、以上合計七二〇五万二六七〇円の報酬等を受け取った。

具体的な右報酬等の内容は次のとおりである。

① 原告正孝委任事件の着手金

五〇〇万円

原告正孝委任事件の委任者は原告正孝である。原告正孝や関係者の話によれば、本件不動産の時価相場は約一二億円するとのことであった。被告に対する依頼の趣旨は、自己の名義以前の部分を除き、本件不動産上の登記一切がすべて虚偽無効であるとの前提に立って、本件不動産を負担のないきれいなものにして取り戻すということであったから、右時価の一二億円を基準として会規に則った率を乗じ、事件の特異性、複雑性、報酬金の支払方法等を考慮して許容額の最高額(三〇パーセント増)である四九一九万円を算出した。

被告は、右事件の着手金の内金として昭和六二年五月一二日に原告正孝から五〇〇万円を受領したが、その後、亡耕作から事件を受任した際、右着手金のうち五〇〇万円を超える部分は免除した。

原告正孝委任事件は、前記のとおり本件不動産の真実の所有者が亡耕作であることが判明したため、原告正孝の責に帰すべき事由によって履行不能となり事件追行が不可能になったものであり、このような場合、民法一三〇条の解釈により受任者は成功報酬の全額を請求できるものと解すべきであり、会規五条にも、依頼人が故意もしくは重大な過失で依頼事件等の処理を不能にしたときは、弁護士は、その弁護士報酬の全額を請求することができると規定されている。したがって、被告は右事件につき着手金はもとより成功報酬も全額請求することができる。さらに、本件の委任契約書(甲第二号証の二)第三項には右の場合について、既に支払った着手金等の返還を請求できない旨注意的に規定している。

原告正孝が支払ったその余の資金(乙第七号証の六〇〇万円と乙第八号証の一の一五〇〇万円)は、その後亡耕作の委任事件の裁判諸費用として流用されたが、原告正孝が右資金の流用を承諾したのは、亡耕作の委任事件を引き起こした実質的責任者は原告正孝であること、原告正孝は、亡耕作の委任契約に関し、亡耕作の債務を連帯保証しかつ亡耕作の代理人となっていること、原告正孝が金策した資金は、結局のところ亡耕作の財産を引き当てにし、亡耕作の負担において捻出したものであること等の理由により、原告正孝が「亡耕作のため」流用を承諾する形で被告に支払ったものであり、原告正孝が自己の委任事件につき着手金として「自己のため」支払った五〇〇万円とは性格を異にする。

② 亡耕作委任事件の着手金

四九一九万円

右の算定根拠は①記載のとおりである。

③ 亡耕作委任事件の成功報酬額

一四〇九万円

亡耕作委任事件の訴訟上の和解にあたって障壁となった問題点は、「和解金の額」、「明渡猶予期間」、「目的物件の買戻条項」の三点であったところ、特に二、三番目については、ベンチ・マーク側が「即時の明渡し」と「買戻しの絶対不可」を強く主張したのに対し、亡耕作側は、半年程度の明渡猶予期間の設定を強く希望し、右の点に関する和解条項の文言をめぐって裁判所での和解期日だけで一〇回、裁判所外で三、四回の和解折衝が重ねられた。この間、ベンチ・マーク側からは、即時の明渡しであるならば和解金の上積みをしてもよい旨の話もあったが、亡耕作側は明渡猶予期間に固執してついにそのとおりの要求を通し、さらに一応ではあるが和解条項上、三番目の買戻しにも応ずる含みを持たせてもらうことに成功した。

右による利益を七〇〇〇万円と考え、これを和解金二億三〇〇〇万円に加算した合計三億円に会規所定の料率をあてはめて最高額(三〇パーセント増)の一四〇九万円を算出した。被告は、昭和六三年一〇月一三日ころ、原告正孝に右の旨を話して、被告が預った和解金の内金五〇〇〇万円の中から右報酬を差し引く旨の合意をした。

④ 亡耕作委任事件の費用

一〇〇万円

被告は、亡耕作委任事件の処理にあたり、印紙・郵券・登録税及び交通費等の実費として一〇〇万円を要した。

⑤ (2)、(3)事件の仮処分保証金立替に対する謝礼 一〇〇万円

亡耕作は、昭和六二年五月二五日ころ、被告が(2)、(3)事件の保証金を立て替えたことに対する謝礼として被告に一〇〇万円を支払うことを約束した。

⑥ (5)事件の着手金 二〇〇万円

亡耕作は、昭和六二年七月一〇日ころ、被告に対し(5)事件の着手金として二〇〇万円を支払うことを約束した。

(6) 仮に、三〇パーセント増とせず、その代わり一件ごとに算定した場合の具体的な報酬額の算定は次のとおりである。

① 原告正孝の委任事件について

イ 寺嶋弁護士から引き継いだ(1)事件については、報酬金込みで二〇〇万円が相当である。理由は寺嶋弁護士も原告正孝から二〇〇万円を受け取っていること、この程度の事件なら右金額が常識的な金額と思われること等である。

ロ 原告正孝からの保全事件の受任の中には、再度、土地建物の全体を含めた第二次仮処分申請をやり直すことも含まれており、現に被告は右申請にも着手した。よって、本件不動産の時価を一二億円としてこの分の着手金額を計算すると、会規一八条、二三条1項一号により、一二六一万五〇〇〇円となる。なお、右第二次仮処分事件は申請書提出の直前に原告正孝らの虚偽登記申請等が発覚したため申請を取り止めたが、会規五条によれば一応の請求も可能であり、仮に請求するとすれば同額の一二六一万五〇〇〇円となる。

ハ 原告正孝から受任した本案訴訟事件の着手金は、本件不動産の時価である一二億円を基準とする三七八四万五〇〇〇円が相当である。

ニ 原告正孝から受任した買戻資金調達及び本件不動産の処分関係等の事務に関する着手金は、会規一一条の二を適用するのが妥当な事案であるから、七五九万九〇〇〇円となり、報酬金も右同額となる。

ホ 右による着手金の合計額は六〇〇五万九〇〇〇円となり、報酬金(予想額)も右同額となるが、現実には被告は原告正孝から五〇〇万円のみを収受し、その余の部分は免除した。

② 亡耕作の委任事件について

イ 神谷印刷を債務者とする(2)事件の着手金は前記原告正孝委任事件の場合と同様一二六一万五〇〇〇円であり、報酬金は執行不能に終わっているためゼロである。

ロ ベンチ・マークを債務者とする(3)事件についてさらに着手金を請求することが妥当か否かは別として、当事者(仮処分債務者)が違ってくれば(2)事件と別事件であることは間違いなく、ベンチ・マークに転売された後の仮処分申請については疎明の程度と範囲も加重されるから、形式的に計算するなら着手金額は右同様の一二六一万五〇〇〇円である。

そして、右事件については債務者から異議申立が出されて弁論が開始されたから、成功報酬の適正額は、会規二三条1項三号を適用して二五二三万円が相当である。

ハ (4)事件(本案訴訟)についての着手金額は、前記原告正孝委任事件の場合と同様三七八四万五〇〇〇円が相当である。

成功報酬金については、「受けた経済的利益」をどう見るかによるところ、和解金について二億三〇〇〇万円と見るべきことについては問題がない。

「明渡猶予期間(和解成立日から六か月)の設定」等については、和解条項七項所定の使用損害金(一日五〇万円)を明渡し猶予期限までの半年間(約一八〇日)について免除を受けたから、この分の利益を五〇万円×一八〇日=九〇〇〇万円と考えることもできるし、別の考え方としては亡耕作らは時価一二億円の不動産について六か月間の無償使用を続けるわけであり、その間における相手側の金利損失を計算すると、当時はバブル経済の上昇期で市中金利(短期プライムレート)は年9パーセントの高さであったから12億円×年9パーセント×0.5年=5400万円と考えることもできる。

和解条項一二項の自己満足的な利益は算定不能として会規一七条により五〇〇万円と考えるか、またはゼロと考えるかのどちらかである。

そのほか、和解条項一四条には、本件不動産が相手側の所有に移った日(昭和六一年一二月一九日)から和解成立日(昭和六三年一〇月四日)までの間の「目的不動産の使用に伴う損害金の免除」の趣旨が当然に含まれているし、原告正孝ら家族の者に対する刑事上・民事上の責任不問の趣旨も事実上含まれている。

被告が現時点で受任事件を一件ごとに合計三件と別々に数えたうえで適正と思われる報酬額を計算すると、経済的利益の額は、和解金二億三〇〇〇万円+明渡し猶予益五四〇〇万円(前記短期プライムレートの率による計算を採用)+その他一切の利益五〇〇万円=二億八九〇〇万円と考え、これに同会規一八条の標準料率を乗じた一〇五一万五〇〇〇円が相当と考える。

ニ 不動産の取戻資金調達及び物件の処分関係事務の着手金は、前記原告正孝委任事件の場合と同様七五九万九〇〇〇円が相当である。

ホ (5)事件の適正着手金額については、経済的利益の額を会規一六条1項六号により不動産の時価一二億円の半額と考えると、会規一八条、二二条二号(要審尋事件)により九九二万二〇〇〇円となる。右の仮処分申請は、数回の審尋の後に事実上の目的は達したものの却下されたから、報酬金はゼロでよい。

ヘ 以上イの一二六一万五〇〇〇円、ロの二五二三万円、ハの三七八四万五〇〇〇円及び一〇五一万五〇〇〇円、ニの七五九万九〇〇〇円、ホの九九二万二〇〇〇円の合計金額だけで一億〇三七二万六〇〇〇円となり、ニの七五九万九〇〇〇円を除いても九六一二万七〇〇〇円となる。したがって、被告と亡耕作とが現実に約定した額である六七二八万円は、全体をほぼ一件ととらえたうえで会規一八条2項による三〇パーセント増を適用したものであったが、結果的にはかなり割安であったことになり、原告ら側の言い分を斟酌したとしても、少なくとも不当に高額すぎるとは到底言えない。

第三  争点に対する判断

一  本案前の主張について

被告は、本訴請求にかかる預託金仮還請求権に対し滞納処分による差押えがされたことにより、原告らは本件訴訟の追行権を失ったので、本件訴えは不適法として却下されるべきであると主張する。しかしながら、右差押えがあっても、差押債務者には第三債務者に対し債務名義を取得し時効中断の効果を得る独自の利益があること、もし差押債務者が提起した給付訴訟の追行中に当該債権に差押がされた場合に右の訴えが却下されるとすると、その後、右差押えが取り下げられたときは、差押債務者は改めて第三債務者に対し訴えを提起しなければならなくなり訴訟経済に反すること、仮に、差押債務者が右給付訴訟の勝訴判決に基づき強制執行をしてきたときには、第三債務者は右差押えがされていることを理由に執行異議を申し立てることによりこれを阻止しうること等に鑑みると、右差押えにより原告らは何ら本件訴訟を提起、追行する権限を失うものではないと解するべきである。被告は、一般の債権差押の場合(差押債権者は、差押命令送達の日から一週間経過したときに取立権を取得する。民事執行法一五五条一項)と異なり、滞納処分による差押えの場合には徴収職員が直ちに差押債権の取立権を取得すること(国税徴収法六七条一項)を根拠として主張するが、右取立権取得の時期の差異が、差押債務者の訴訟追行権の有無についての前記判断を左右するものとは認められない。したがって、被告の本案前の主張は失当である。

二  本件の経過について

当事者間に争いのない事実及び証拠(甲第一号証の一、二、第二号証の二ないし四、第三号証の二ないし四、第四号証の一、二、第五号証の一、二、第六号証の一ないし八、第七号証の一ないし三、第八号証の一ないし六、第九号証の一ないし一二、第一〇号証の一ないし七、八の一、第一二号証の二、四ないし九、第一三号証の一ないし四、第一七号証の一、二の各一、二、同号証の三ないし一六、第一八号証の一の一ないし八、同号証の二ないし五、第一九号証の三ないし五、第二一号証の一、二五、第二三号証の一ないし四、第二四号証の一、二、第二六号証の一、二、第二七号証の一ないし六、第二八号証の一、二、第二九号証の一、三、乙第一ないし四号証、第六、第七号証、第八号証の一、二、第一〇号証、第一二ないし第一四号証、第一八号証、第二二号証の一、二、第二三、第二七号証、証人野田喜樹の証言、原告正孝及び被告各本人尋問の結果)によれば、次の事実が認められ、乙第二ないし四号証、第二七号証、右証人野田の証言及び原告正孝本人尋問の結果中、これに反する部分は、前掲各証拠に照らし採用することができない。

1  原告正孝は、昭和六一年一二月一九日、神谷印刷から四億円を利息日歩四銭、弁済期昭和六二年六月一八日、期限後の損害金日歩八銭の約定で借り受けるとともに、右債務を担保するため本件不動産の所有権を神谷印刷に移転し、弁済期までに右債務を弁済しなかったときは即時に本件不動産を明け渡す旨の譲渡担保契約を結び、その旨の譲渡担保契約書を作成した(なお、本件不動産のうち、別紙物件目録記載(一)ないし(三)の土地については原告正孝、同世津子及び同タケ三名の共有名義であったため、同世津子及び同タケも右譲渡担保契約の当事者になっていた。)。神谷印刷は、右譲渡担保契約に基づき、本件不動産につき、昭和六一年一二月二〇日、同月一九日売買を原因とする共有者全員持分全部移転登記(土地につき)ないし所有権移転登記(建物につき)を得た。

その後、原告正孝は、神谷印刷から、同社の紹介する鈴木弁護士を原告正孝らの代理人として右譲渡担保契約についての即決和解をするよう求められた。そして、右弁護士が原告正孝らの代理人となって、昭和六二年一月に東京簡易裁判所に、神谷印刷を相手方とする起訴前の和解申立をした。ところが、右申立にかかる和解条項には、原告正孝らが売買により本件不動産の所有権を神谷印刷に移転し、昭和六二年六月一九日限り神谷印刷に本件不動産を明け渡すとの内容の記載しかなく、譲渡担保であって弁済期に弁済すれば本件不動産を取り戻せる旨の記載がなかったため、原告正孝は、右条項の内容に異議を述べ、右申立は取り下げられた。

2  神谷印刷は、昭和六二年三月二四日付け内容証明郵便で、原告正孝らに対し、契約内容は、同原告らの神谷印刷に対する代金を四億円とする売買契約、並びに同年六月一八日までに同原告らが四億円を支払って買戻しができる旨の神谷印刷の同原告らに対する売買予約契約であること、同原告らが右期限までに右売買予約に基づく代金四億円の支払ができなかったときは本件不動産を明け渡すとの内容の即決和解をするとの約定に違反したので右売買予約を解除すること、但し、同年三月三一日までに四億円を支払えば本件不動産を同原告らに返還すること等を内容とする通知をした。

原告正孝は、右通知に驚き、同月末ころ、友人から紹介を受けた寺嶋弁護士に、右通知に対する対処方を依頼した。寺嶋弁護士は、右依頼に基づき、原告正孝の資金繰りからみて土地建物両方の仮処分保証金の準備が困難であるとの判断から、同年四月二八日、とりあえず本件不動産のうち建物のみについて、原告正孝を債権者、神谷印刷を債務者とする処分禁止の仮処分を東京地方裁判所に申請するとともに((1)事件)、同年五月一日到達の内容証明郵便で、神谷印刷に対し売買予約解除は無効である旨を通知した。右仮処分につき東京地方裁判所は、同月八日、一五〇〇万円の保証決定(寺嶋弁護士の第三者立担保)をした。

原告正孝は、右に先立ち仮処分保証金の金策を行っていたが、なかなか都合がつかず苦慮していたところ、知人から数億円を融資してくれるところがあると聞かされ、保証金の工面のみならず右数億円の融資を受けて神谷印刷に対する債務を全額返済できればと考え、右知人の紹介でジーファイブの野田に会ったところ、野田から、とりあえず右保証金について融資をし、神谷印刷に対する返済資金等数億円の融資についても第三者を紹介してもよいが、弁護士を野田の知っている被告に変えてほしいと言われた。原告正孝は、同月九日、被告の事務所で被告と面会して、同人に事件処理を依頼することを決め、寺嶋弁護士に対し、同日中に、右事情を記載した書面をファックスで送付して依頼を断った。

なお、原告正孝、同タケ及び同世津子は、同月六日、ジーファイブとの間で貸付等の取引に関する取引約定を結び(主債務者原告正孝、連帯保証人同タケ及び同世津子)、その旨の取引約定書をジーファイブに差し入れた。また、亡耕作及び原告田中三代子は、その後、後記のとおり亡耕作が被告に訴訟委任をしたころ、右取引約定に基づく原告正孝のジーファイブに対する債務につき連帯保証した。

3  原告正孝は、昭和六二年五月一一日、ジーファイブから二〇〇〇万円を弁済期同年八月一〇日、利息・損害金各年36.5パーセントの約定で借り受ける約束をし、原告世津子及び同タケは連帯保証人となった。被告は、右同日(同年五月一一日)、野田の求めに応じて、右元本債務につき保証人となり、ジーファイブにその旨の同月一二日付保証書(甲第二三号証の三)を差し入れた。

右同日(同月一一日)、原告正孝、同世津子及び同タケは(原告世津子及び同タケについては、同正孝が代理して)、被告との間で、概略次の内容の委任契約を結び、その旨の委任契約書(甲第二号証の二)を作成した。この際、被告は、原告正孝に費用の内容について説明した。

(1) 委任の内容と範囲

① 神谷印刷に対する本件不動産についての処分禁止仮処分

② 本件不動産取戻しのための訴訟提起

③ 本件不動産取戻資金捻出に関する不動産処分関係(本件不動産を担保にジーファイブないし被告が仲介して第三者から数億円を借り出し、その中から神谷印刷に対する債務を返済するという趣旨。)

(2) 報酬額及び支払時期

① 着手金

会規の標準額の三〇パーセント増の金額によることとし、昭和六二年五月一二日に五〇〇万円を支払い、残金は右事件終了時に全部を支払う。

② 報酬金

会規の標準額の三〇パーセント増の金額を、右事件終了時に支払う。

③ 手数料、日当

被告は、会規三八条により手数料、日当を請求できる。

被告は、寺嶋弁護士の(1)事件の法律構成(買戻特約付き売買)では、勝訴の見込が薄いと考え、いずれ法律構成を変えたうえ(登記原因たる売買契約の不存在等)、本件不動産全部について仮処分をやり直そうと考えていたが、原告正孝が早急な仮処分の執行を望んでいたことや寺嶋弁護士からの事件引継ぎを円滑に行いたいとの考えから、とりあえず至急(1)事件の仮処分を執行したうえで、土地をも含めた本件不動産全部についての仮処分を改めてやり直そうと考え、右委任契約を結ぶにあたり、原告正孝とその旨合意した。その際、被告が原告正孝に対し、土地をも含めた仮処分の保証金の工面ができるかどうか尋ねたところ、原告正孝は、以前から金策を頼んでいたところがあるので工面できる予定ではあるが、確実なことは言えないと述べた。

4  被告は、右委任に基づき、翌一二日、(1)事件につき東京地方裁判所に対し、原告正孝の被告に対する委任状及び被告による第三者立担保許可の上申書を提出して右許可を得、同日、ジーファイブから前記融資約束に基づき原告正孝の銀行口座に二〇〇〇万円が振込送金されたので、原告正孝から右二〇〇〇万円を受け取り、うち五〇〇万円を着手金の一部として自ら取得し、残金一五〇〇万円を右仮処分保証金として東京法務局に供託し、同日中に右仮処分決定を得、翌一三日、その旨の仮処分登記がされた。

ところが、被告が、同月一二日の昼ころ、原告正孝に対し、右仮処分決定正本の交付を同日夕方には受けられることになった旨を電話連絡した際、土地についての仮処分の保証金の準備状況につき尋ねたところ、原告正孝から、右同日、別途工面した二五〇〇万円の金員を寺嶋弁護士宛に振り込んでしまったことを聞かされた。被告は、なぜ原告正孝が既に依頼を断った寺嶋弁護士に右金員を送金したのか理解できず立腹し、一体何を考えているのだなどと原告正孝を怒鳴りつけ、直ちに取り戻し手続をするよう指示した。原告正孝は右同日中に寺嶋弁護士に訂正の電話をし、寺嶋弁護士は、直ちに右送金された二五〇〇万円のうち八〇〇万円を原告正孝宛に振込送金した。そして、被告は、同日夕方ころ、被告事務所を訪れた原告正孝に対し、同原告の勘違いにより、間違って寺嶋弁護士に二五〇〇万円を送金してしまったので、二、三日中に右二五〇〇万円を取り戻してジーファイブから借りた二〇〇〇万円を全額返済すること、右約束に違反したときは(1)事件の仮処分事件を取り下げて担保取消し申立をされたうえ、保証金として供託した一五〇〇万円を右ジーファイブに対する債務の内入弁済に充てられても異存がない旨の誓約書を書くよう求め、原告正孝は右求めに応じて右内容の誓約書(甲第一二号証の六)を作成し被告に交付した。

さらに、被告は、同日午後五時ころ、あらかじめ連絡のうえ、原告正孝を伴って寺鳴弁護士の事務所を訪れ、同弁護士から事件記録の引継ぎを受けるとともに、右二五〇〇万円の残金のうち同弁護士の報酬等を除いた一五〇〇万円を被告の銀行口座に振り込み送金してほしいと依頼した。原告正孝は、翌一三日、右受領した八〇〇万円のうち六〇〇万円を被告宛に振込送金した。また、寺嶋弁護士は、同月一四日、右被告の依頼に応じて残金から自己の弁護士報酬等として二〇〇万円を差引き取得した後の一五〇〇万円を被告宛に振込送金した。

被告は、前記誓約書作成の時点では、二五〇〇万円全額の送金を受けて、うち二〇〇〇万円をジーファイブに対する返済にあて、残金五〇〇万円と新たな仮処分決定が出た段階で取り下げる予定の(1)事件の仮処分の保証金取戻金を引き当てに被告が一五〇〇万円を一時立て替えて、右の合計二〇〇〇万円を新たな仮処分の保証金としようと考えていたが、現実に送金を受けたのは右のとおり合計二一〇〇万円で不足額が生じたこと等からジーファイブに対する弁済は当面見合わせ、右二一〇〇万円を新たな仮処分の保証金にあてることとした。

5  被告は、昭和六二年五月一五日ころから、原告正孝との前記合意に基づき本件不動産全部についての新たな仮処分申請の準備を始め、翌一四日までに申請書、報告書その他の疎明資料を準備し、翌一五日に、報告書に原告世津子及び同タケから署名捺印をもらい次第、裁判所に仮処分申請をする予定であった。

ところが、被告は、同月一五日朝に事務所に来た原告世津子から、実際には亡耕作から原告正孝ら三名に対する本件不動産の贈与はなく、原告正孝と同世津子が、金庫から亡耕作の実印を持ち出し、印鑑証明書を取り寄せて勝手に本件不動産につき所有権移転の登記手続等を行ったのだと打ち明けられて驚き、急遽右仮処分申請を取り止めた。

被告は、翌一六日、原告正孝を事務所に呼び、本件不動産の真実の所有者が亡耕作であることを野田に打ち明け、数億円の融資の話はやめにしてもらうこと、原告正孝は直ちに亡耕作に真相を打ち明け、亡耕作から被告に対する事件処理の委任を取り付けること、被告は、亡耕作の委任状が届き次第、同人を債権者とする新たな仮処分を申し立てること、被告はできるだけ速やかに亡耕作と面会して正式な委任契約を締結すること等を話し合った。その際、原告正孝は、被告が原告正孝及び寺鴫弁護士から送金を受けた前記二一〇〇万円のうち二〇〇〇万円をジーファイブから借り受けた二〇〇〇万円の返済にあてること、残金一〇〇万円は神谷印刷に対する訴訟費用にあてることを承諾するとともに、ジーファイブからの借入金二〇〇〇万円の使用内訳は、一五〇〇万円が仮処分保証金で残金五〇〇万円が被告に対する着手金の内金であることを確認し、新たな仮処分に要する金員と費用は別途金策することを約束するとの承諾書(甲第一二号証の七)を作成し、被告に交付した。もっとも、被告は、現実には直ちにジーファイブへの返済をせず、事件終了時まで右二〇〇〇万円を保管していた。

6  被告は、昭和六二年五月一七日までに、本件不動産について亡耕作を債権者、神谷印刷を債務者とする仮処分申請書(本件不動産につき亡耕作から原告正孝らに贈与がされた事実はなく、登記は実体のない無効のものであることを理由とする。)及び報告書その他の疎明資料を作成、準備した。疎明資料のうち、神谷印刷から訴外住昌株式会社に対する売買契約書の写しは、(1)事件の仮処分申請の時点で右売買契約の事実が判明していたため、被告が事件受任後の同月一三日ころ右会社に連絡を取り、同月一六日ころ事務所で同社社長と面談した際、社長に頼んでコピーを取らせてもらったものである。そして、同月一七日、原告正孝が亡耕作の被告に対する訴訟委任状を持ってきたため、被告は、疎明資料中の報告書を原告正孝に託して亡耕作らの署名捺印をもらい、翌一八日午前九時三〇分ころ東京地方裁判所の窓口に仮処分申請書類を提出し、被告の裁判官面接を経て保証決定(二二〇〇万円、被告による第三者立担保許可)を得た((2)事件)。右決定を受けて、被告の妻が同日午前一一時ころ、立担保手続(銀行との支払保証委託契約)をし、午前一一時三〇分ころ立担保の証明書等を裁判所に提出し、午後三時三〇分ころ、裁判所から本件不動産全部についての仮処分決定正本と登記嘱託書を受領し、午後五時ころ練馬法務局に登記嘱託書を提出し、受理された。なお、(2)事件の保証金は被告の妻が代表取締役をしている有限会社ハプロス企画(以下「ハプロス企画」という。)が立て替えた。

ところが、翌一九日、被告が練馬法務局に登記手続の進行状況を聞いたところ、登記官から本件不動産につき前記仮処分による登記嘱託前に別の登記申請があり、登記簿が閉鎖中なので手続に着手できない、申請内容については教えられないとの回答を受けた。このため、被告が前記住昌株式会社の社長に問い合わせるなどした結果、どうやらベンチ・マークが所有権移転登記手続申請をしたらしいことが判明し、とりあえず同日中にベンチ・マークの商業登記簿謄本を取り、翌二〇日に本件不動産の登記簿謄本を取ってみたところ、予想どおり同月一六日付けで神谷印刷からベンチ・マークに対し、売買を原因とする所有権移転登記がされており、(2)事件の仮処分は執行不能であった(右仮処分の登記嘱託は、同月二〇日却下された。)。

そこで、被告は、直ちに同日午後二時三〇分ころ、ベンチ・マークを債務者とする本件不動産の処分禁止の仮処分を申請し、午後三時三〇分ころ被告の第三者供託の方法による保証金(二二〇〇万円)の供託を行い、翌二一日裁判所から仮処分決定正本及び登記嘱託書を受領し、同日付けで本件不動産につき仮処分登記を得た((3)事件)。右保証金も、(2)事件と同じようにハプロス企画が立て替えた。ベンチ・マークは、その後、同年六月に、右仮処分決定に対し仮処分異議を申し立てたので、被告は、亡耕作の代理人として準備書面や疎明資料を提出し応訴した。

7  被告は、昭和六二年五月一八日、あらかじめワープロで作成した委任契約書及び借用証書の用紙を、被告の妻を通じて原告正孝に預けるとともに、翌日に亡耕作宅に行って同人と面会すること、明日の面会時までに全員から署名捺印をもらったうえ、全員の印鑑証明書を用意すること、右面会時には新事件の着手金として最低二〇〇万円を用意しておくこと等を指示した。そして、被告は、翌一九日午後七時三〇分ころ、あらかじめ作成した「公正契約委任状」(甲第一八号証の一の三)を持参し、事務員を同行して亡耕作方を訪れた。原告正孝は、亡耕作宅に入る直前に、被告から指示されたとおり現金二〇〇万円を、被告に交付した。

被告は、亡耕作に対し、これまでの経過を説明し、その場で、亡耕作との間で概略次の内容の委任契約を結び、その旨の委任契約書(甲第二号証の三)を作成した。

(1) 委任の内容と範囲

① 神谷印刷に対する本件不動産についての処分禁止仮処分申請

② 本件不動産取戻しのための訴訟提起

③ 本件不動産取戻し資金捻出に関する資金調達及び本件不動産の処分関係

(2) 報酬額及び支払時期

① 着手金

会規の標準額の三〇パーセント増(最高額)により、昭和六二年五月二一日二〇〇万円、同年九月三〇日二〇〇万円、同年一二月三一日三〇〇万円及び事件終了時に残金全部を支払う。

亡耕作は、被告に対し着手金及び②の報酬金を会規によって許容される範囲の最高額を支払うものとし、本案訴訟の着手金だけで四九一九万円となる(被告は本件不動産の時価を合計一二億円として右着手金の額を算出したものである。)。

② 報酬金

会規の標準額の三〇パーセント増(最高額)により、事件終了時に支払う。

③ 手数料、日当

被告は、会規三八条により手数料、日当を請求できる。

④ 原告らは、右委任契約に基づく亡耕作の被告に対する債務につき連帯保証する。

なお、右の席で、原告タケから四九一九万円の着手金は高すぎるとの意見が出されたが、被告が、前金で支払うのは月賦で七〇〇万円であり、残金は訴訟終了時にそれなりの成果があがったときに限り支払ってもらうとの説明をし、その場は納まった。

また、右の席で、亡耕作及び原告らは、(2)事件のハプロス企画が立て替えた保証金二二〇〇万円につき、右金員を亡耕作が同社から無利息で一時的に借用したこと、同月二〇日までに右金員を返済することとし、返済を遅滞した場合には年三〇パーセントの割合による遅延損害金を支払うこと、原告らは亡耕作の同社に対する債務につき連帯保証することを内容とする、同社宛の借用証書(甲第一八号証の一の二)及び右の内容の公正証書作成を嘱託する旨の前記公正契約委任状を作成し、各人の印鑑証明書と共に被告に交付した。

さらに、同月二一日、亡耕作及び原告らは、被告の要求に従い、(3)事件でハプロス企画が立て替えた保証金二二〇〇万円についても、(2)事件での借入金を流用することとしたこと、前記約定の弁済期である同月二〇日に借入金を返済できなかったので、翌二一日以降の年三〇パーセントの遅延損害金を付加して資金繰りがつき次第速やかに返済すること、原告らは亡耕作の同社に対する債務につき連帯保証すること、右借入金について公正証書の作成を承諾することを内容とする念書(甲第一八号証の二)を被告に交付した。

8  原告正孝は、昭和六二年五月二五日、被告宅に、七項目の質問を記載した書面(甲第一八号証の三)を持参し、(1)ないし(3)事件の仮処分の保証金としてそれぞれ供託ずみの金員合計五九〇〇万円(一五〇〇万円+二二〇〇万円+二二〇〇万円)と、被告に渡した金員合計二三〇〇万円(4で原告正孝が送金した六〇〇万円+寺嶋弁護士が送金した一五〇〇万円+7で渡した二〇〇万円)との関係は結局どうなるのか、成功報酬を含めた費用の全体はいくらくらいになるのか、本件不動産に不法に立ち入る者がいた場合にはどのように対処したら良いのか等について被告に質問した。被告は、これに対し、全体の内容を説明したうえ、費用については現在進行中であり確定的なことは言えないと述べ、原告正孝の求めに応じて授受した金員の使途につき、概略次の内容の覚書(甲第一八号証の五)を作成交付した。

(1) 原告正孝がジーファイブから借り受けた二〇〇〇万円、原告正孝が送金した六〇〇万円、寺嶋弁護士が送金した一五〇〇万円及び原告正孝が現金で交付した二〇〇万円の合計四三〇〇万円の使途を次のとおり確認する。

① 原告正孝名義の仮処分((1)事件)保証金一五〇〇万円

② 原告正孝の依頼による事件の着手金五〇〇万円

③ 亡耕作の依頼による事件の着手金内金二〇〇万円

④ 事件追行に関する実費前渡金一〇〇万円

⑤ 亡耕作名義の仮処分二件の保証金合計四四〇〇万円

⑥ 右⑤の立替金に対する損害金(謝礼)一〇〇万円

以上によれば二五〇〇万円の不足となる。

(2) 右①ないし⑥のうち、①の一五〇〇万円は仮処分取下げにより、⑤のうち二二〇〇万円が執行不能により、合計三七〇〇万円が戻る予定である。

(3) したがって、(2)の金額から(1)の不足額を差し引いた一二〇〇万円が余剰金となる。

なお、被告は、同月二七日、(1)事件を取り下げて担保取消しの申立をし、右仮処分登記は同年六月一日に抹消された。

また、不法侵入者に対する対処について土地立入禁止仮処分の方法があると説明したところ、同年六月中旬ころ、原告正孝から本件不動産の周辺を神谷印刷ないしベンチ・マークの意を受けたと思われるやくざが徘徊しているので右仮処分申請をしてもらいたいとの依頼を受けたため、被告は、同月二四日ころ、亡耕作を債権者、神谷印刷及びベンチ・マークを債務者とする本件不動産への立入禁止仮処分を東京地方裁判所に申し立てた((5)事件)。右仮処分事件は、審尋の結果、昭和六三年一月八日保全の必要性の疎明がないとの理由で却下された(甲第一〇号証の四)。

9  被告は、昭和六二年七月一〇日、亡耕作及び原告正孝との間で次の内容の委任の変更契約を結び、その旨の変更契約書(甲第二号証の四)を作成した。

(1) 前記仮処分の執行取消しによる保証金の戻り金については、うち二〇〇万円を前記(5)事件の着手金として支払う。

(2) 右戻り金の残金は、後記(4)事件と前記(3)事件の仮処分異議事件の着手金残金の内金として支払う。

(3) 原告正孝が昭和六二年八月中に四〇〇万円〜五〇〇万円を支払うので、これを(5)事件の仮処分保証金にあてるか、前記ジーファイブから借りた二〇〇〇万円の内入返済にあてるかのいずれかにし、その判断は被告に一任する。

原告正孝は、右約定に従い、同年八月一九日、被告の銀行口座に四〇〇万円を振込送金した。

10  被告は、昭和六二年六月三日、亡耕作らの訴訟代理人として、神谷印刷及びベンチ・マークらを被告とする土地建物所有権移転登記抹消登記等請求の訴えを東京地方裁判所に提起した((4)事件)。同事件被告らは、訴訟代理人を選任し、亡耕作が原告正孝、同世津子及び同タケに本件不動産を贈与した等と主張して、争った。右事件では、同年一二月までの間に口頭弁論期日が四回開かれ、この間、原被告が準備書面をそれぞれ一通ずつ陳述し、同事件原告らが甲第一号証の一ない五(不動産登記簿謄本)、第二号証の一ないし四(戸籍謄本等)を提出し、同事件被告らが乙第一ないし第四号証(不動産贈与証等)を提出するとともに四名の人証申請及び甲号証に対する成立の認否をした。この間、被告は、亡耕作に直接贈与の意思を確認した者であるとして同事件被告らから証人申請されていた庄野隆夫司法書士に電話したり、直接面会する等して右意思確認の点について問い合わせたが、同司法書士は必ず本人に問い合わせている旨答え、この点についてははかばかしい成果が得られなかった。

そして、同年一二月一八日の第四回口頭弁論期日に裁判所の和解勧告があり、昭和六三年一月から五月までの間に六回の和解期日が開かれたが、亡耕作側では本件不動産の取戻しを前提とした和解を考えていたのに対し、ベンチ・マーク側では本件不動産の引渡しを前提として和解を考えていたこと、神谷印刷から原告正孝に現実に四億円の貸付がされている以上、神谷印刷らに右借入金の返済をしなければ本件不動産取戻しの和解は無理であることが明らかであったのに、亡耕作側では右金員の工面の見込がなかったこと等から、結局話合いはまとまらず、同年五月二〇日和解打切となった。被告は、同年四月二二日の和解期日終了後、原告世津子に対し、原告正孝が数億円の金策ができない以上、残念だろうが被告から和解金をもらって解決する意外に方法がないのではないか、被告としてはその方向が良いと思うので皆と良く相談するようにと告げた。

被告は、亡耕作が当時脳動脈硬化症等の病気のため字が良く書けず、口も良く回らない状態であったため、同事件処理のためには原告正孝の協力が必要であるとして、同原告に対し、①譲渡担保によって所有権移転した本件不動産を神谷印刷から取り戻すために必要であるので、借入にかかる四億円につき天引額、手取額及びその使途を疎明資料等で明らかにすること、②書証を引用しながらできるだけ詳細な陳述書を作成すること等を求めていたが、原告正孝は被告の催促にもかかわらず、右資料をなかなか作成提出せず、ようやく提出されたものも不十分であった。そのうえ、原告正孝は、昭和六三年八月下旬ころから、被告との連絡が極端に悪くなり、被告が同原告の自宅に電話してもほとんど連絡がとれない状態が続いた。このため、被告は、同年九月二五日、同原告と会った際、立腹し、同原告に、本日以後は被告から電話があり次第必ず折り返し電話をすることとし、不履行の場合にはどのような不利益があっても異存ないとの誓約書(甲第三号証の二、三)まで書かせたが、その後も連絡の悪さは改まらなかった。右和解打切後、被告としては、原告正孝の詳細な陳述書を作成、提出する予定であったが、同原告が、右のような状態であったことから、同年七月四日と九月五日に開かれた口頭弁論期日においては、乙号証の成立の認否等を行ったにとどまった。

被告は、原告正孝と連絡がとれない右のような状況では本訴訟を維持できないこと、仮に原告正孝の協力が得られたとしても、前記のとおり庄野司法書士の証言が出れば亡耕作が勝訴する見込は薄いこと、もし敗訴すると、本件不動産はもとより仮処分供託金二二〇〇万円の取戻しさえ危うくなること等から、同訴訟では亡耕作が和解金を受け取る形での和解をするしかないとの結論に達し、原告タケに電話でその旨を伝えたところ、同原告は、金策もできないのだから仕方がない、よろしくお願いします、と述べた。被告は、同年八月一九日、事前連絡のうえ亡耕作宅を訪問し、亡耕作に右のことを直接説明し、亡耕作らから、右訴訟につき若干の和解金を受け取り、本件不動産をベンチ・マークに引渡す旨の訴訟上の和解を成立させることを依頼された。そして、被告は右依頼があったことを明らかにするため、右同日、あらかじめ被告がワープロで作成して持参した依頼書(甲第三号証の四)に亡耕作、原告タケ及び原告世津子の署名捺印をしてもらった。この際、被告は、和解金の額については前から話の出ていた二億円に少しでも上積みをし、最終的には二億二〇〇〇万円から三〇〇〇万円にするつもりである旨話して亡耕作らの了解を得た。また、原告タケは、明渡猶予期間をなるべく長くとってもらいたいこと、その間にできるだけ金策をしてみるのでなるべく買い戻し条項を入れてもらいたいとの希望を述べた。

11  右訴訟は昭和六三年九月五日の第六回口頭弁論期日において、再度和解手続に入ることになり、その後、四回の和解期日や代理人間で何度か接触を重ねた結果、同年一〇月四日の和解期日において大要次の内容の訴訟上の和解が成立した。

(1) 原告らは、ベンチ・マークが本件不動産の所有者であり、原告らが右不動産につき何らの占有権原を有しないことを認める。

(2) 亡耕作は、ベンチ・マークに対し、被告から後記(3)③の一億円の支払を受けるのと引き換えに平成元年三月三一日限り本件建物を明け渡す。

(3) ベンチ・マークは、亡耕作に対し、二億三〇〇〇万円を、次の通り分割して亡耕作または亡耕作ら代理人(被告)あて持参または送金して支払う。

① 内金五〇〇〇万円を和解成立時に

② 内金八〇〇〇万円を昭和六三年一〇月二〇日限りベンチ・マークに対する仮処分取下げ、執行取消しと引き換えに

③ 残金一億円を平成元年三月三一日限り亡耕作がベンチ・マークに本件不動産を明け渡すのと引き換えに

(4) ベンチ・マークは、同社に対する仮処分についての担保取消しに同意する。

(5) 亡耕作は、平成元年二月二八日限り、ベンチ・マークとの間に協議して定める代金を現実に提供して本件不動産を買い戻すことができる。ただし、右期間内に亡耕作とベンチ・マークとの間に右協議が調わないときはこの限りでない。

被告は、右和解成立前の同年一〇月二日、成立した右和解とほぼ同内容の和解条項案を事前に亡耕作及び原告タケに示して説明した。亡耕作及び原告タケは、被告の説明に納得し、右和解条項案に署名捺印した(甲第四号証の一)。

被告は、右和解成立時に、(3)①の和解金の分割金五〇〇〇万円を第三者振出しの小切手で受け取った。被告は、同日直ちに、亡耕作宅に電話して、原告タケに、和解が成立したこと、小切手を受け取ったので換金したうえで精算すること等を伝え、さらに、同月一二日、同じように亡耕作宅に電話して、原告タケに、和解調書正本を裁判所から受け取ったので写しを取りに来るよう依頼した。そして、翌一三日、原告正孝、同世津子が、被告を訪れたので、和解調書の写しを交付し、その受取書(甲第四号証の二)を書いてもらった。被告は、原告正孝らに前記和解金五〇〇〇万円の精算については、ジーファイブからの前記借入金を二、三日中に精算したうえ、被告の報酬を差し引いて残額を送金する旨申し入れ、原告正孝らはこれに納得したうえで、右受取書に、和解金については被告の報酬等を差し引いたうえ指定の銀行口座に送金をお願いする旨記載した。

なお、被告は、(1)ないし(3)事件で供託した供託金(合計五九〇〇万円)を全額取り戻した。

12  被告は、昭和六三年一〇月一七日、前記の和解金五〇〇〇万円から報酬等を差し引いた残額として、一七〇〇万円を亡耕作名義の普通預金口座に振り込んだところ、翌一八日、原告正孝から被告に対し、どうして一七〇〇万円しか送金されていないのかという問い合わせの電話があり、被告が概略を話したうえ詳細の確認をし合うために被告方に来てほしいと述べたところ、原告正孝はそうすると答えた。

ところが、亡耕作及び原告タケは、同月一八日付け内容証明郵便で、被告に対し、信頼できないことがあるので(承諾なく和解をしたこと、供託金その他の費用として六九〇〇万円を受領しながら明細を不明にしたまま領収証も預り証も発行しないこと、弁護士報酬の明確な約定をしないまま不当に高額の金員を受領して返還しないこと、五〇〇〇万円の和解金につき何ら明細を明らかにしないまま一七〇〇万円のみを送付したこと)、訴訟委任を解除する旨を通知した。

さらに、原告正孝は、同年一一月一四日、債権取立等を業とする暴力団関係者と思われる者を含む合計五名で被告事務所を訪れ、以前被告事務所で二二〇〇万円を現金で支払ったが被告から返還を受けていない旨主張し、そのようなことはないとする被告と議論となったが、後日それぞれ納得のいく資料をそろえたうえで再度会うことになった。ところが、原告正孝は、その後同年一二月一三日に、だいたい調べがついたので、近いうちに被告事務所を訪ねるとの電話をよこした以外には、被告と連絡をとらないまま、亡耕作及び原告らが同月二六日に東京弁護士会に紛議調停の申立をし、本件に至った。

三  亡耕作の預託した金員について

1  亡耕作が原告ら主張の別紙預託金目録記載②(六〇〇万円)、③(一五〇〇万円)、⑨(四〇〇万円)、⑩(三三〇〇万円)記載の金員合計五八〇〇万円を被告に預託したことは、当事者間に争いがない。

2  同目録①について

被告は、同目録記載①の二〇〇〇万円のうち五〇〇万円は、原告正孝の依頼した(1)事件の処理等のための着手金として同原告から受領したものであって、亡耕作から預託を受けたものではない旨主張する。確かに、右二〇〇〇万円の金員は、原告正孝が依頼者として被告に交付したものであることは、前記認定のとおりである。しかしながら、前記認定によれば、原告正孝の委任事件は、委任後一〇日もたたないうちに亡耕作の委任事件に切り換えられたこと、右切り換えの時点で原告正孝の委任事件について被告が行った作業は寺嶋弁護士が既に保証決定を得ていた(1)事件について保証金を供託して仮処分決定を得、本件不動産全部についての新たな仮処分を申し立てる準備をした程度であってさほど進行していたとはいえないこと、原告正孝の委任事件と亡耕作の委任事件とは法律構成が多少異なるものの実質的には同一内容の事件であるといえること、原告正孝が交付した二〇〇〇万円の金員は原告正孝の自己資金から出捐されたものではなく、全額ジーファイブからの借入金から支払われたものであるところ、亡耕作は被告に事件を委任した際に右借入れに関するジーファイブと原告正孝との間の取引約定書に連帯保証人として署名したこと、被告は右二〇〇〇万円のうち原告正孝が申請人となった(1)事件の保証金一五〇〇万円については原告正孝の預託金ではなく亡耕作の委任事件関係の預託金として右事件についての報酬にあてる旨主張していることが認められ、右各事実に照らすと、委任者を原告正孝から亡耕作に切り換えた時点で、原告正孝が預託した右二〇〇〇万円の金員全部を亡耕作の委任事件関係の預託金として切り換える旨の黙示の合意が、原告正孝、亡耕作及び被告間にあったと認めるのが相当である。したがって、右二〇〇〇万円全額が亡耕作の預託金として取り扱われるべきである。

3  同目録④について

原告らは、原告正孝が昭和六二年五月一九日に被告に対し、仮処分の保証金に充てるため別紙預託金目録記載④の二二〇〇万円を明王建設から都合して現金で預託した旨主張し、乙第三、第四、第九号証及び原告正孝本人尋問の結果中には右主張に沿う記載及び供述部分がある。

しかしながら、乙第三、第四号証では昭和六二年五月一九日に明王建設から借り入れたものであると記載されているのに対し、本人尋問においては神谷印刷から借り入れた四億円のうち約九〇〇〇万円を明王建設に預けており、その一部の返還を受けたものであると供述し、さらに明王建設の代表者が記載したとする乙第九号証では「栗原正孝氏に貸し出した金額」として二〇〇〇万円を「昭和六二年五月一七日」に貸し付けたと記載されており、右各記載及び供述には相互に矛盾があるうえ、前記認定事実及び甲第一七号証の一六によれば、原告正孝が、昭和六二年八月ころ、神谷印刷から借り入れた四億円の使途について記載し被告に交付した書面には、九〇〇〇万円を明王建設に交付したとの記載がないことが認められ、右事実によれば明王建設に九〇〇〇万円を預けていたとの右供述は疑わしい。また、乙第二九号証によれば、昭和六一年一二月二四日に原告正孝名義の普通預金口座から九〇〇〇万円が引き出されていることが認められるが、右通帳の記載のみでは右金員が明王建設に支払われたものと認めることはできない。右に述べたところによれば、乙第三、第四、第九号証及び原告正孝本人の前記記載及び供述部分は被告本人尋問の結果にも照らし、にわかに信用することができず、他に別紙預託金目録記載④記載の金員が被告に交付されたことを認めるに足りる証拠はない。

なお、亡耕作が原告正孝を通じて、昭和六二年五月一九日に、被告に対し着手金の一部として二〇〇万円を支払ったことは被告も認めるところであり、その経過は前記認定のとおりである。

4  同目録⑦について

原告らは、亡耕作が別紙預託金目録記載⑦の二二万五五〇〇円の金員を印紙収税戻り分の受領書を交付することによって被告に支払った旨主張するが、証拠(甲第一号証の一、第一三号証の三、四、乙第一一号証、被告本人尋問の結果)によれば、被告は(2)事件の仮処分登記に必要な登録免許税二二万五五〇〇円を亡耕作のため立て替えて支払ったこと、右登記嘱託が昭和六二年五月二〇日却下されたため登録免許税法三一条の規定に基づき、亡耕作宛に同年六月一七日付けで亡耕作に対し右登録免許税を還付する旨の通知書(国税還付金支払及び充当通知書)が来たため、被告は右立替金の返還分として原告正孝から右書面の交付を受けたものであることが認められ、右事実によれば、被告は亡耕作から立替金の返還を受けたにすぎないから、右金員を亡耕作の預託金とするのは相当でない(右登録免許税相当額を費用として亡耕作の預託金から控除すべきでないことはもちろんである。)。したがって、この点についての原告らの主張は失当である。

5  同目録⑤⑥⑧について

原告らは、亡耕作が別紙預託金目録記載⑤、⑥、⑧の各金員を原告正孝を通じて被告に支払ったと主張し、乙第三、第四号証、原告正孝本人尋問の結果中には右主張に沿う部分があるが、右記載及び供述は被告本人尋問の結果に照らし信用することができず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

6  以上によれば、亡耕作が被告に交付ないし預託した金員は、右1の合計五八〇〇万円、2の二〇〇〇万円、3に記載の二〇〇万円の合計八〇〇〇万円であると認められる。

四  弁護士報酬額等について

1  委任契約に基づく報酬合意

(一) 前記認定によれば、亡耕作は、委任契約において、被告に対し着手金及び報酬額につきいずれも会規の標準額の三〇パーセント増(最高額)により支払う旨約束したこと、被告が右着手金算定の基礎となる本件不動産の時価を一二億円であるとして着手金の金額を四九一九万円としたことが認められる。

(二) 信義則違反ないし公序良俗違反による委任契約の無効の主張について

原告らは、被告が委任契約書(甲第二号証の二、三)について何ら内容を説明することなく、亡耕作らに白紙に署名捺印させたものである旨主張し、原告正孝本人尋問の結果中には右主張に沿う部分があるが、右原告正孝の供述は甲第二四号証の一、二、第二七号証の一、六、第二九号証の一及び被告本人尋問の結果に照らし信用することができず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。かえって、前記認定によれば、亡耕作らが右委任契約書に署名捺印した際には合意内容の記載があったこと、被告は、右委任契約書を作成した際、亡耕作や原告らがどの程度その内容を理解したかどうかは別として、契約書記載の弁護士費用の内容について説明を行ったことが認められる。右によれば右委任契約の内容である報酬に関する合意が信義則または公序良俗に違反し無効であるということはできない。原告らは、被告が原告らに委任契約書を交付しなかったと主張するが、委任契約書作成の経緯が右のとおりであると認められる以上、書面交付の有無は右判断を左右するものではないというべきである。

したがって、委任契約ないし報酬合意が無効であるとの原告らの主張は失当である。

2  弁護士報酬等の額について

(一) 右のとおり、本件の当事者間では弁護士報酬に関する合意が有効に存在しており、基本的には、右合意により報酬額が決定されるというべきである。しかしながら、一般に委任契約は当事者間の信頼関係を基礎としており他の契約関係に比較して信義誠実の原則や衡平の原則が強く支配する契約関係であるところ、右の原則は法律専門職である弁護士とその依頼者との委任契約においてはよりいっそう強調されるべきであり、このことは、弁護士法一条が弁護士は基本的人権を擁護し社会正義を実現することを使命とし、右使命に基づき誠実にその職務を行わなければならないと定めていること、日本弁護士連合会制定の弁護士倫理四条が弁護士は信義に従い、誠実かつ公正に職務を行うと定めていることからも明らかである。そして、弁護士倫理三七条が弁護士が事案の実情に応じ適正・妥当な報酬を定めなければならないとしているのも右の信義誠実の原則や衡平の原則に基づくものというべきである。そうすると、弁護士の報酬額を決めるについて当事者の合意内容にすべて拘束されるとするのは相当でなく、事件の難易、経済的利益、労力の程度や所要時間の多寡、弁護士会報酬規定の内容その他諸般の情況を総合考慮して、信義誠実の原則及び衡平の原則に基づき約定の範囲内においてその報酬額を減額できると解するのが相当である。

(二) これを本件についてみると次のとおりである。

(1) 着手金及び報酬額の三〇パーセント増について

前記のとおり、原告らと被告間の本件委任契約においては着手金及び報酬金がいずれも会規の標準額の三〇パーセント増(最高額)と約定されている。しかしながら、前記認定によれば、右委任契約の対象である事件の内容は、亡耕作が、その所有していた本件不動産を息子である原告正孝らに無断で所有権移転登記されたうえ、原告正孝の四億円の借入金の担保として神谷印刷に所有権移転登記をされたとして、神谷印刷及び同社から本件不動産につき所有権移転登記を得たベンチ・マークに対し各所有権移転登記の抹消を求めるもので、法律構成はさほど困難とはいえず、むしろよくある一般的な不動産事件であるというべきこと、右事件の本案訴訟は口頭弁論期日が六回開かれたが、被告はこの間準備書面一通と書証九通(うち五通は登記簿謄本、一通は戸籍謄本)を提出しただけで、その余は専ら和解手続に費やされたこと、訴訟の提起から和解成立による終了までの期間は約一年四か月でさほど長期間を要したとはいえないこと等の事情に鑑みるならば、前記認定のとおり本案訴訟の追行につき原告正孝が非協力的であったこと、被告が同人の妻が代表者をしているハプロス企画を通じて仮処分保証金を一時立て替えたこと等の事情を斟酌しても、着手金及び報酬金のいずれについても標準報酬額の三〇パーセント増とする根拠は見い出し難く、右増額部分は信義則と衡平の原則に照らしその効力を認めるべきではない。また、(1)ないし(5)事件は、本件不動産の取戻しという一個の社会的事実の実現に対して向けられた一連の行為であり、委任状も基本的には一通しか作成されていないことにも鑑みると、委任された事件は全体として一件として算定すべきである。

この点につき、被告は、三〇パーセント増とする根拠として右委任契約においては本来の受任件数が三件であるのを全体として一件としたため事件が複雑、多岐にわたるものとなった旨主張するが、前記認定の事件の内容や処理経過に鑑みると、受任件数を全体として一件としたことによって事件が複雑、多岐にわたるものとなったと認めることはできないから、右主張は失当である。

(2) 着手金算定の基礎となる経済的利益の額について

被告は右着手金算定の基礎となる経済的利益は本件不動産の時価であり、委任契約当時の右時価は一二億円であったと主張する。しかしながら、証拠(甲第五号証の一、二、被告本人尋問の結果)によれば、委任契約当時の金融業者や不動産業者が行った本件不動産(建物を除く)の評価額は一坪当たり四〇〇万円から五五〇万円の間であったことが認められるところ、当時正式な鑑定がされていなかったことを考慮するならば、右時価の決定も信義則と衡平の原則に照らし控えめに行うのが相当であり、右評価額のうちの最低額である一坪当たり四〇〇万円と評価すべきであると解されるから、土地全体(約二三〇坪)の当時の時価は九億二〇〇〇万円となる(なお、建物については、当時既に築後一六年を経過し、その財産的価値は著しく低下しているうえ、右各号証においても何ら評価されていないから、これを除くものとする。また、原告正孝が本件不動産を担保に神谷印刷から借入れた額(四億円)、その和解成立日までの利息、遅延損害金合計(約一億八〇五六万円)、和解金(二億三〇〇〇万円)の総合計が約八億一〇五六万円にとどまることからみても、右時価評価は妥当である。)。

そして、これを経済的利益として会規により着手金を算定すると、二九四四万五〇〇〇円となる。

原告らは、被告が受任した事件は四億円で所有権移転された本件不動産の取戻しを求めるものであるから、着手金の算定基準となる経済的利益も右四億円を基準とすべきであり、時価を基準とするのは相当でないと主張するが、右四億円はあくまで本件不動産を担保とした貸付金の金額にすぎないから、右金額を経済的利益とするのは相当でなく、前記のとおり対象不動産の時価を経済的利益とすべきである。したがって、原告らの主張は失当である。

(3) 報酬金算定の基礎となる経済的利益の額について

前記認定によれば、前記委任契約に基づく本案訴訟は本件不動産の所有権がベンチ・マークにあることを確認したうえで、亡耕作が和解金としてベンチ・マークから二億三〇〇〇万円を受領し、約六か月後に本件不動産を明け渡すとの内容の訴訟上の和解により終了したものであるところ、報酬金算定の基礎となる経済的利益の額は右和解金額及び明渡猶予の利益等を総合して二億五〇〇〇万円と解するのが相当であり、右金額を基礎に会規に基づき報酬金を算定すると、九三四万五〇〇〇円となる。

3  諸費用等について

前記認定事実並びに証拠(乙第一四号証)及び弁論の全趣旨を総合すると、前記委任契約に基づく事件処理のための貼用印紙、予納郵券、登録免許税(ただし、(2)事件で立て替えた登録免許税を含まないことは前記のとおりである。)等の諸費用及び書面作成、調査、研究、日当、交通費等の合計額は一〇〇万円を下らないことが認められるので、少なくとも右金額は亡耕作の預託金から控除されるべきである。

4  立替金に対する謝礼金

前記認定事実によれば、亡耕作は原告正孝を通じて、昭和六二年五月一五日ころ、被告側で(2)、(3)事件の保証金として合計四四〇〇万円を立て替えたことに対する謝礼として被告に一〇〇万円を支払うことを約束したことが認められる。

5  (5)事件の着手金

前記認定事実によれば、亡耕作は、昭和六二年七月一〇日に委任契約の変更契約を結び、(5)事件(立入禁止仮処分)の着手金として二〇〇万円を支払うことを約束したことが認められ、右金額については不当に高額であるとまでいうことはできない。

原告らは、右変更契約の基礎となった委任契約が信義則ないし公序良俗に違反し無効であるから、右変更契約も無効であると主張するが、前記委任契約が無効といえないことは前記説示のとおりであるから、右主張は失当である。

6  弁済金について

前記認定事実及び証拠(甲第二三号証の四、被告本人尋問の結果)によれば、原告正孝がジーファイブから借り入れ、その後亡耕作が連帯保証人となった二〇〇〇万円の借入金の昭和六三年一〇月一七日現在の残額は七九四万七三三〇円であったこと、被告は前記訴訟上の和解に基づく第一回の和解金五〇〇〇万円の中から右七九四万七三三〇円を亡耕作に代り弁済したことが認められ、右認定に反する証人野田喜樹の証言はあいまいであって採用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。したがって、右金額も亡耕作の預託金額から控除されるべきである。

7  右2ないし6の合計額は五〇七三万七三三〇円であり、右金額が亡耕作の預託金から控除されるべきである。

五  以上によれば、被告は、原告らに対し、前記三記載の亡耕作の預託金合計八〇〇〇万円から右四記載の報酬等合計五〇七三万七三三〇円を控除した二九二六万二六七〇円を返還すべきものであり、右金額を原告らの相続分に応じて分割すると、原告タケが一四六三万一三三五円、その余の原告らがそれぞれ四八七万七一一一円(円未満切捨)及び右各金員に対する遅延損害金の返還請求権を被告に対し有していることになる。

よって、原告らの請求は右金額の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決することとし、仮執行宣言の申立については、相当でないので付さないこととする。

(裁判長裁判官大和陽一郎 裁判官阿部正幸 裁判官菊地浩明)

別紙物件目録〈省略〉

別紙物件目録〈省略〉

別紙預託金等支払目録〈省略〉

別紙報酬等目録〈省略〉

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